僕が子どもの頃はゲームなんてなかったから、
みんな学校から帰ると公園で遊んでいた。
そこへ、一人のおっちゃんが
自転車をこいでやってくる。
そして、いつもの場所に自転車を止めると、
チリ〜ンチリ~ンと大きな鐘を鳴らす。
「ナメナメのおっちゃんや!」
僕たちはいっせい駆け寄った。
あっちこっちから子どもたちが集まってきた。
ナメナメのおっちゃんの正体は、
紙芝居のおっちゃんだ。
自転車の荷台に大きな木箱が備えつけられてあり、
それをバタンと起こすと、紙芝居が登場する。
いつも「チョンちゃん」だった。
大人になってから知ったけれど、有名な紙芝居らしい。
でも内容は、もうすっかり忘れてしまった。
だって、僕たちのお目当ては紙芝居じゃない。
ナメナメだ。
「型抜き菓子」というのを知っているだろうか。
3cm×4cmくらいの大きさで、薄くて硬くて、
表面に花や動物などの絵が描かれている。
といっても輪郭だけのシンプルな絵だ。
このお菓子を食べるのではなく、
口の中でなめて、絵のカタチを抜き出すのである。
ピンのようなもので削り取るのが一般的らしいが、
僕たちはアメのようになめて型抜きしていた。
それは珍しいのだろうか?
紙芝居が終わると、
このナメナメの販売が始まるのだ。
だから、紙芝居のおっちゃんは
「ナメナメのおっちゃん」なのだ。
上手に型を抜くと、センベイがもらえる。
超極薄のセンベイだけれど、
多彩な“トッピング”が用意されていた。
練乳、しょうゆマヨネーズ、天かすとソース、
ソーメンとソースなど、ジャンクのオンパレード。
しかも、それらが全部、自転車の荷台に乗っている
古びた木箱の中に収まっていた…。
引き出しを開けるとソーメンが入っているなんて、
今から考えればビックリだ。
それをセンベイの上に乗せてソースをかけて食べる。
なんと大胆な発想か。
これが、めっちゃうまかった。
公園にナメナメのおっちゃんが現れる(笑)。
今なら怪しすぎるけれど、
おっちゃんは子どもたちの人気者で、
もちろんオカンもオトンも学校の先生も知っていた。
誰も防犯ベルなんて持っていなかったし、必要もなかった。
日が暮れる頃、どこかの家からカレーの匂いが漂ってきて、
みんな、おなかがすいて帰っていった。
夕日も、なんだか優しげだったような。
そんな時代の話だ。