大阪南港には昔、だだっ広い砂浜があったんだ。
青い海と白い砂って雰囲気じゃないけれど、
何もない、大きな砂浜だった。
もう40年以上も前のことだ。
イトウ、ナカタ、オノちゃん、ときどきモリカワ。
中学生だった僕らは、
南港の砂浜へよく釣りに出かけた。
日の出の時間を新聞で調べて、
暗いうちから出発する。
夜道がちょっと怖い。
携帯電話なんてないから、
家まで誘いに行く。
竿袋とクーラーボックスを担いで、
川沿いの道を真っすぐに、ひたすらチャリンコをこぐ。
(いま心の中のBGMは「スタンド・バイ・ミー」)
2時間くらいかかった。
かもめ大橋が特にしんどかった。
南港へ釣りに行く人なら
「伊勢吉」さんを知っているでしょう。
今では立派なフィッシングショップだけれど、
その頃は古びた小屋だった。
失礼ながら、本当に“ほったて小屋”という感じ。
そこで青イソメを何百円分か買って、
僕らはまたチャリンコをこぐ。
(ここで再び「スタンド・バイ・ミー」)
冬は、めちゃくちゃ寒かった。
今みたいにユニクロのヒートテックとかないから、
重ね着していっても寒くて死にそうになるので、
流木を拾って焚き火をするんだ。
それがなんだか面白くて、冬ばっかり行っていた。
魚は、ちっとも釣れなかったよ。
たまにガッチョ、よくて手のひらカレイ。
行きと同じ空っぽのクーラーボックスを担いで、
夕暮れの川沿いの道をまっすぐに、
僕らはまたチャリンコをこいで帰っていった。